皮ごと食べられる種無しぶどうって遺伝子組み換えしてるの!?
最近スーパーで見かける皮ごと食べられる種無しぶどうが、とても安くそして美味い。
具体的には、「クリムゾン」と「トンプソン」である。まずまずの量で300円くらい。
子どもが大好きで良く食べる。フルーツはお菓子よりいいので、バンバン与えてる。
でも、親だからふと思うことがある。輸入品だから安いのはいいとして…
これ、健康にいいのかい?
種がないって…遺伝子組み換えのサイボーグじゃないのかい?
そういえば、最近成長が悪いような…。あぁ、不安だ。
種無しぶどうは、どうやって作ってるの?
「ジベレリン」という言葉を聞いたことがあるだろうか?私はない。
調べて初めて分かったのだが、我々動物と同じく、植物も内部にホルモンを持っているらしい。
人間の内部にあるホルモンといえば、代表的なのは、インスリンだ。
体内の血糖値を調整する重要な分泌物である。
植物も同じように色々なホルモンを持っている。その中で成長を促すホルモンの1つが「ジベレリン」なのである。
種無しぶどうは、このジベレリン水溶液に、果実がなる前のぶどうのめしべを浸すことでできるのだそう。
~具体的な手順~
- 粉末状のジベレリンを水に溶かし、コップに入れる
- コップにぶどうの房を浸す
- 果実がなるまで見守る
こうやって手間をかけて出来上がる種無しぶどう。
最初に疑ったような遺伝子組み換えではなく、植物が内部に持っているホルモンを使うので、安全というのが一般的な見解である。
ホルモンを投与する。なんだか、筋肉増強剤を投与するようなドーピング感はあるが、本来植物の内部に存在する微量のホルモンなので、安全なのだ。
安心した。
そもそも植物ホルモンってなんだ?
人間でいうところのホルモンは、さきほどのインスリンのほか有名なのはなんだろう?
男性ホルモンや女性ホルモンがまっさきに浮かぶ。
これらは、男性を男性らしく、女性を女性らしく成長させるホルモンだ。
ある意味、成長ホルモンといえる。
逆にインスリンは、体内の血液中の糖分をバランスよく保つことで、病気などにかからないようにする非成長ホルモンだ。
このようなホルモン、かつては植物にはないと考えられていた。
しかし、植物にもホルモンが存在することが研究から解明されたのだ。
植物ホルモンの定義としては、「植物自身の内部で生産され、植物の成長や抵抗を微量で調節する低分子量の有機化合物」とある。
以下は、植物ホルモンの主な種類だ。
種無しぶどうでお馴染みのジベレリンのほか、
オーキシン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、エチレン、アブシシン、ジャスモン酸、サリチル酸などがある。
これらのホルモンは、成長系と抵抗系に大雑把に分かれる。
成長系はだいたいわかる。植物を成長させるのだ。
では抵抗系はなんだろう?
別名ストレスホルモンと呼ばれる抵抗系は、なんらかのストレスを受けると発動する。
例えば、
- 雨がふらず乾燥する→
- 内部の水分を失うかもしれないストレスを感じる→
- 気孔を閉じて内部の水分の流失を防ぐ
アブシシンというホルモンが水ストレスを感じると、気孔を閉じる。
これが、ストレスホルモンのわかりやすい働き方である。
主に果物などを作る農家の場合、天候などの理由で収穫にばらつきがあると困る。それを少しでも防ごうと生まれたのが、この成長ホルモンを利用する栽培方法である。
そして、たまたま、成長ホルモンジベレリンをぶどうに使っていたところ、種無しのぶどうができたのだ。種無しぶどうは意図して出来たのではなく、あくまでも偶然なのだ。
ジベレリンは農薬だし、発がん性もあるんじゃないの!?
ジベレリンが植物由来のホルモンであるとわかっても、いやいや、ホルモン投与でドーピングでしょ?ホルモンつってもカテゴリー的には農薬だし…。(農林水産省認定の農薬)
やっぱ、絶対ヤバいよ。
という意見も根強くある…。
その最大の論拠となるのが、エジプトでマウスに「ジベレリン」を与えた実験結果。
なんと、乳腺がんと肺腺がんを発病したというのだ。
これを聞くと途端に怖くなるのだが…。
しかし、危険性を謳う人々の根拠となるこのエジプト実験だが、その後の実証実験も行われておらず、ちょっと証拠としては脆弱らしい。
たまたま出てしまった、みたいなとこもあるのかと…。
種無しぶどうが開発されたのが、1957年。そこから、2019年の今まで50年間、さほどの危険な疑いなく、市場に出回ってるところを鑑みるに、安全であると結論付けてもよいだろう。
よし、皮ごと食べられるぶどうは、安全であると認定しよう。
全部種無しにしちゃえばいいんじゃないの?
ここまでくると、じゃあ、果実も大きくなるし、食べやすいんなら、全部この処理しちゃえばいいじゃない。という気にもなる。
しかし、デメリットもあるのだそう。
まず第一に、このジベレリンの処理が効きづらい品種もある。有名な「巨峰」などがそれ。品種によって感度が異なるため無理にやると手間だけかかってしまい、コスト損である。
また、ぶどうの種は香りの源になるという論もある。つまり、ワインなど香りを楽しむものの原料には種無しは使えないのだ。
余談であるが、ジベレリンは日本人が発見したらしい。
1938年黒沢英一さんという農化学者が、馬鹿苗病(バカナエビョウ)のもとになる菌「イネ馬鹿苗病菌(Gibberella fujikuroi)」の毒素が、ジベレリンというホルモンであるということを発見した。
思えばカビも植物である。このカビが成長するのを助けているのが、ジベレリンだったのだ。
この発見、研究からでてきた植物ホルモンが、1950年代のぶどうの種無し化に役立つのだ。まわりまわって化学って面白いなぁ。
ちなみに、このホルモン剤。市販で買えます!
植物成長調整剤 ジベレリン協和液剤 40ml 価格 800円くらい
種無しぶどうだけでなく、いちごやナス、メロン、トマトなどなど。
成長促進剤として活躍している模様。
農業には全く興味が無いけど、家庭菜園とかやる人には、植物ホルモンというのはお馴染みのものなのかもね。